建物状況調査の重要事項説明

建物状況調査の重要事項説明

1. トラブル未然防止の観点から既存住宅インスペクションの類型説明

 現在、「既存住宅」を対象として行われている「インスペクション (状況調査) 」は、その内容から次の3種類に分かれます。

Ⅰ. 既存住宅の状況把握のための基礎的インスペクション(一次的なインスペクション)

 目視等を中心とした非破壊による状況調査を行い、構造安全性や日常生活上の支障があると考えられる劣化事象等の有無の把握を、比較的短時間で、可能な範囲で行う「一次的なインスペクション」です。既存住宅売買時の建物調査や住宅取得後の維持管理時の定期的な点検等がこれに当たります。

 業務内容は、これを実施するためのコストが、依頼契約者にとって一般的に負担可能な程度となること、また、短期間で手続きが進められる既存住宅売買時の流れの中で利用可能なものであることが考慮されています。これは病院に例えるなら、数十分で終わる「健康診断」のレベルです。

Ⅱ. 既存住宅の不具合箇所の修繕目的で利用される二次的なインスペクション

 破壊調査も含めた詳細な調査を行い、劣化事象等の生じている範囲を特定し、不具合の原因を総合的に判断しようとするものです。現に、日常生活上支障が生じている場合など不具合を修繕しようとする際のものであり、住宅の耐震診断等はこれに当たります。

 これは、病院に例えるなら、「二次診断としての精密検査」のレベルです。専門的な検査器具を用い、その分野の専門医療を行っている専門病院あるいは総合病院で診てもらう段階です。

Ⅲ. 既存住宅の性能向上リフォーム実施目的で利用される性能向上インスペクション

 リフォーム実施の前後に状況調査・検査等を行います。前段階として、住宅の劣化状況と性能を把握する状況調査・検査等を行います。後段階として、「耐震改修」、「省エネ断熱改修」、「バリアフリー改修」等の実施時に、既存住宅の性能が向上したかどうかの状況調査・検査等を行います。

 これは病院に例えるなら、「二次診断としての精密検査」をした上での「整形外科手術」「美容整形外科手術」のレベルといったところでしょうか。

2. 既存住宅の基礎的インスペクション(状況調査)の内容

(1)基本的な考え方

ⅰ.調査の内容
 状況調査の内容は、売買の対象となる住宅(戸建住宅、共同住宅を問わず対象とする)について、基礎、外壁等の住宅の部位毎に生じているひび割れ、欠損といった劣化事象及び不具合事象(以下「劣化事象等」という。)の状況を、目視を中心とした非破壊調査により把握し、その調査・検査結果を依頼契約者に対して報告することにあります。

ⅱ.状況調査には次の内容を含みません
 劣化事象等が建物の構造的な欠陥によるものか否か、欠陥とした場合の要因が何かといった瑕疵の有無を判定すること。
 耐震性や省エネ性等の住宅に係る個別の性能項目について当該住宅が保有する性能の程度を判定すること。
 現行建築基準関係規定への違反に関する有無を判定すること。
 設計図書との照合を行うこと。

ⅲ.付随的に実施される業務について
 依頼契約者の意向等に応じて、別途業務、別途費用ではありますが、インスペクション業務に付随しまして、下記のサービス提供が考えられます。

  1.  補修工事やリフォーム工事に係る方法や費用の目安に関する情報の提供
  2.  住宅履歴情報の蓄積に関する情報の提供
  3.  調査した住宅に係る一定の不具合に対する保証の提供
  4.  敷地又は住宅に関する現行の建築基準関係法令の規制内容等の情報提供
  5.  敷地又は住宅に関する現行建築基準への合致状況の調査報告

ⅳ.調査の対象について
 状況調査における調査対象の範囲は、以下を基本とします。

  1.  現場で足場等を組むことなく、歩行その他の手段により移動できる範囲に限定されます。
  2.  戸建住宅における小屋裏や床下については、小屋裏点検口や床下点検口から目視可能な範囲に限定されます。床下に潜っての点検や小屋裏に上がっての点検は、二次的なインスペクションであり、追加オプションとなり別途費用が発生します。
  3.  共同住宅においては、専有部分及び専用使用しているバルコニーから目視可能な範囲に限定されます。

ⅴ.容易に移動できない家具等により隠れている部分と点検口が無い場合について

 状況調査実施時において、容易に移動できない家具等により隠れている部分については、目視等により確認できません。
 床下点検口、小屋裏点検口、天井点検口が無い場合には、目視点検は物理的に不可能となります。報告書には該当する箇所とその理由を記載します。
 荷物の移動につきましては、調査員は行えません。売主・所有者(居住者)の方の同意と責任下での移動以外は不可能です。
 報告書には、目視の限界があるため、誤解を招かぬように確認できた範囲を5段階で表示して対応している場合もあります。特に、「床下点検」や「小屋裏点検」などの目視が非常に難しい箇所で、「住宅性能評価」および「瑕疵保険」などで用いられています。

<参考>
 1:すべてまたはほとんど確認できた(9割以上)
 2:過半の部分は確認できた(5割から9割未満)
 3:過半の部分は確認できなかった(1割から5割未満)
 4:ほとんど確認できなかった(1割未満)
 5:まったく確認できなかった

(2)調査項目

 調査項目は、調査対象部位と劣化事象等で構成され、劣化事象等については部位・仕上げ等の状況に応じた劣化事象等の有無を確認することを基本とします。

ⅰ.確認する劣化事象等としては、以下を基本とします。

  1.  構造耐力上の安全性に問題がある可能性が高いもの
    (例)蟻害、腐朽・腐食や傾斜、躯体のひび割れ・欠損等
  2.  雨漏り・水漏れが発生している、又は発生する可能性の高いもの
    (例)雨漏りや漏水等
  3.  設備配管に日常生活上支障のある劣化等が生じているもの
    (例)給排水管の漏れや詰まり等

ⅱ.調査対象とする劣化事象等について

 調査対象とする劣化事象等については、既存住宅に係る住宅性能評価の状況調査における総合判定で対象としている特定劣化事象等及び瑕疵保険の現場調査に係る調査基準における劣化事象等(設備配管に係る劣化事象等を含む)を基本として設定します。

(3)調査方法

ⅰ.状況調査の調査方法について
 目視、計測を中心とした非破壊による調査を基本とします。目視を中心としつつ、一般的に普及している計測機器を使用した計測や触診・打診等による確認、作動確認等の非破壊による調査を実施します。

ⅱ.非破壊検査機器の活用について
 電磁波レーダー等を用いた鉄筋検査やファイバースコープカメラ等の非破壊検査機器を用いた検査については、追加オプションとなり、別途費用が発生します。

ⅲ.破壊検査について
 破壊検査については、破壊することについて住宅所有者の同意を得る必要があることから、既存住宅売買時の利用を前提とした状況調査においては、原則として含まれていません。

3.既存住宅状況調査の手順

(1)業務受託時の契約内容等の説明等
ⅰ.業務の依頼申し込み

 インスペクション業務の依頼申し込みに際して、依頼契約者から、「依頼書」と合わせて以下の書面等を提出して頂くことを基本とします。

  •  調査対象住宅の基本的な情報(所在地、構造・工法、階数・規模、建築時期、リフォーム等の実施状況)
  •  依頼契約者と住宅所有者や居住者が異なる場合、状況調査を実施することに対する住宅所有者及び居住者の承諾書面
  •  状況調査を実施する際の立会人(売主、仲介業者等)の氏名・連絡先等を「依頼書」に明記、「インスペクション承諾書」にも明記

ⅱ.調査対象住宅の基本的な情報と関連図書の有無の確認について

 インスペクション業務を実施する上で参考となる基本的な情報については、依頼申込時に依頼契約者からの提出を基本としていますが、具体的には下記の内容となります。

① 設計図書(新築時)
 ※理解しやすいように具体例を記載しています。

新築時の確認申請書に必要な図面等の確認点検リスト

 特定行政庁(市役所等-建築課)、若しくは民間確認検査機関へ提出する確認申請には、申請書と構造設計の手法により下記の図面・資料が必要です。

《 仕様規定による構造設計の対応 》

  1. 配置図
  2. 求積図
  3. 各階平面図
  4. 立面図
  5. 断面図
     矩計図を添付する場合は断面図は無くても可。
  6. 矩計図(かなばかりず)
     矩計図は公庫を使用しない場合には不要です。
  7. 壁量計算書・耐力壁バランス検討書(四分割法若しくは偏心率)
     四分割法若しくは偏心率にて耐力壁のバランスを検討した資料。
  8. a.金物選定検討書(N値計算書)
     柱頭・柱脚金物の選定資料。仕様規定は不要。
    b.構造金物配置図
     各階平面図に使用する金物を記載した場合は不要。
  9. 基礎伏図

《 構造計算(許容応力度計算)による構造設計の対応 》

  1. 配置図
  2. 求積図
  3. 各階平面図
  4. 立面図
  5. 断面図
     矩計図を添付する場合は断面図は無くても可。
  6. 矩計図(かなばかりず)
     矩計図は公庫を使用しない場合には不要です。
  7. 構造計算書(許容応力度計算)
  8. 基礎伏図
  9. 各階梁伏図
  10. 小屋梁伏図
  11. 構造金物配置
     各階伏図に使用する金物を記載した場合は不要。

 建物の階数が3階建てや建物の構造が鉄骨造や鉄筋コンクリート造の場合には、構造計算(許容応力度計算)による構造設計の扱いとなります。

 確認申請書に添付する図面には、建築基準法を遵守している事の裏付けデータを書き込むため、実施設計図面と確認申請用の図面とに分けて作成される場合があり、くい違いに注意する必要があります。

 尚、構造計算を行った場合の構造図(基礎伏図・各階床伏図・小屋伏図等)は、確認申請も、同一の構造図を添付されます。

② 改修工事の記録(設計図書、工事内訳書等)
③ 建築確認済証、完了検査済証又は特定行政庁が交付する建築確認等に係る記録を証明する書類(「建築確認記載事項証明書」「確認台帳記載事項証明書」等名称は行政庁により異なる)
④ 住宅性能評価書
⑤ 建物登記簿謄本
⑥ 共同住宅の場合には管理規約、長期修繕計画等の書面の写し、上記の書類が入手できない場合には、依頼契約者の申告(書面、告知書等:売主以外は不可能、買主の場合は、仲介業者を通して売主に依頼する。)により確認し、確認方法と合わせて記録する。

ⅲ.建築確認図面を紛失している場合

① 紛失している「不足図面」のリストを作成して現状保管図面の確認作業をしなければなりません。内容によって重要度が異なりますので一概には言えませんが、立面図だけであれば、通常確認申請図書としての明示事項が少ない為、設計図などが設計した設計事務所などに残っていれば形としては同様の内容のものを手にいれる事は比較的容易かもしれません。

② それとも、確認申請図副本全部を紛失していますか?
確認申請図全部の場合には確認済証や検査済証も一式で綴ってありましたでしょうか?
全て紛失の場合、そのほかの確認に必要になる書き込みの多い平面図や添付書類なども綴ってあったはずですので、確認申請書と実施設計図面の書き込みなどの内容が異なる場合、内容の復元は難しいでしょう。

③ 設計事務所によっては念のため確認申請図書を一式控えとしてコピーを取っている場合もありますが、築年数が経っている場合には、保管義務が無いので破棄されている可能性が高いです。

④ 実施図面の一部(実施図面原図に確認申請に添付する図面とほぼ同じ書き込みをしている場合など)は保管義務がありますので残っている可能性はあります(平成19年6月に改正施行された法律で保管期間が5年から15年になりました)が、義務の有無にかかわらず図面以外の添付書類などはほぼ無い場合が多いでしょう。

⑤ 官公庁などに残っている正本は原則閲覧が出来ません。正規の手続きでは敷地建物の所有者であっても「概要書」までの閲覧に限定されています。
又、保管年限は現在は15年になりましたが、以前はそこの規定によるので3年とか5年とかまちまちでした。

⑥ 検査済証等は家の増改築や転売などの際に重要です。紛失していても官公庁などの台帳に記録があれば証明書などの発行が可能な場合があります。

⑦ 建築確認済証副本は、それがあることによって以後の工事があった場合の計画や確認申請図書の完全性が保たれるという大きな価値があります。

⑧ 紛失が全図面の場合、これから工事があった場合や転売する場合の価値判断に大きな影響がありますので簡単に妥協しないほうが良いと思われます。

 但し、東京都心の狭小敷地の3階建て建売既存住宅の購入検討では、現実問題として、建築確認図面一式が存在しない事例が圧倒的に多いかと思われます。

 不動産物件探しにおいて「立地条件」と「価格条件」を優先させた価値判断を既になされた結果であれば、建物の状況調査で「既存住宅かし保険」の適合判定が出て保険証券が発行されることを持って妥協するのも現実対応かとは思われます。

⑨ 設計事務所やハウスメーカーなどに図面を探してもらい、複写などを入手する努力は、住宅所有者にお願いする以外に術がありません。

⑩ 建物の増改築を想定した場合、当時の設計図(特に構造図)や構造計算書等を紛失しているケースですと、その設計図書が有るのと無いのとでは天地雲泥の差となります。
 あれば書類作成も簡単ですし信頼性も高いですが、なければ建物を調査しデータ作りから始めなければならず、費用や時間もかかります。特に、地中の部分は推察するしかないのでデータの信頼性は著しく低下します。

⑪ 権利書同等の書類だと考える設計事務所等では、建物竣工時に『重要書類 持ち出し厳禁 永久保管』と大きく朱書きしたファイルに一切の設計図書や計算書、確認申請書や検査済証等の書類を綴じ込み、「絶対紛失しないように!」と、念を押して施主に手渡しているほどのものです。